ヒートアイランド対策事例集

大規模道路プロジェクト:遮熱性舗装の適用技術と課題詳解

Tags: スマートロード, 遮熱性舗装, ヒートアイランド対策, 道路建設, 土木技術, LCC

はじめに:大規模道路プロジェクトにおけるヒートアイランド対策の重要性

都市化の進展に伴い、ヒートアイランド現象は都市インフラが抱える重要な課題の一つとなっています。特に、自動車交通量の多い幹線道路や高速道路のような大規模道路プロジェクトでは、広大な舗装面積が太陽熱を吸収し、その熱が都市空間に蓄積・放出されることで、周辺環境の温度上昇を加速させる要因となります。この現象は、夏季の体感温度悪化、電力消費量の増加、さらには熱中症リスクの増大など、多岐にわたる悪影響を及ぼします。

このような背景から、大規模道路プロジェクトにおいて、路面温度の上昇を抑制する「遮熱性舗装」の導入が注目されています。本稿では、土木技術者の皆様が現場で直面する可能性のある具体的な課題に対応できるよう、遮熱性舗装の適用技術、施工上のポイント、効果、コスト、メンテナンス、そして技術的な課題と解決策について詳細に解説いたします。

遮熱性舗装技術の概要

遮熱性舗装とは、通常の舗装材と比較して太陽光をより多く反射し、熱の吸収を抑えることで路面温度の上昇を抑制する舗装技術の総称です。その主な原理は、舗装表面の日射反射率(アルベド)を高めることにあります。

主な遮熱性舗装の種類と材料

遮熱性舗装は、主に以下の2種類に大別されます。

  1. 高反射性骨材を用いたアスファルト混合物:
    • 特徴: 舗装材そのものに高反射性の骨材(例:白色砕石、高炉スラグなど)や顔料を配合し、路面全体で日射反射率を高めます。
    • 適用: 表層部に用いられることが多く、耐久性や交通荷重への適合性が高いです。
    • 材料例: 特殊白色骨材、高炉スラグ微粉末などを配合したアスファルト混合物。JIS R 5201-1に基づいて日射反射率が評価されます。
  2. 遮熱塗料・コーティング:
    • 特徴: 既設の舗装表面に、高反射性の特殊塗料やコーティング材を塗布することで、遮熱効果を発揮します。
    • 適用: 既存道路の改修、橋梁上の舗装など、様々な場面で適用可能です。
    • 材料例: 白色顔料(酸化チタンなど)を主成分とするアクリル系、ウレタン系、またはエポキシ系の特殊樹脂塗料。

性能指標と評価

遮熱性舗装の性能評価には、主に以下の指標が用いられます。

これらの指標は、JIS R 5201-1(セメントの物理試験方法)やASTM E903(鏡面反射率および透過率の測定)などの規格に基づき評価されます。

大規模道路プロジェクトにおける適用事例と技術詳細

大規模道路プロジェクト、例えば都市高速道路の延伸や主要幹線道路の改修において、遮熱性舗装は効果的なヒートアイランド対策として導入が進められています。ここでは、具体的な適用例を通じて、その技術詳細と実践的な側面を解説します。

事例概要:都市高速道路改修プロジェクトにおける遮熱性舗装導入

採用技術の詳細

このプロジェクトでは、以下の複合的な遮熱性舗装技術が採用されました。

  1. 高反射性骨材配合アスファルト混合物の採用(表層):

    • 工法: 新設される高速道路の表層(厚さ40mm)に、日射反射率の高い特殊白色骨材(粒径5〜13mm)と高反射性顔料(酸化チタン)を配合したアスファルト混合物を使用しました。バインダーには耐候性に優れた改質アスファルトを採用し、配合設計においては、骨材の充填率と顔料の均一な分散に特に配慮しました。
    • 使用材料と性能:
      • アスファルト混合物:日射反射率 35%〜45%(初期値)、熱放射率 0.85
      • 骨材:砕石に高反射性コーティングを施したもの、または天然の白色砕石
      • バインダー:ポリマー改質アスファルト
    • 設計上のポイント: 高速走行時の安全性確保のため、通常のアスファルト舗装と同等以上の滑り抵抗性(BPN値:45以上)を維持するように骨材の種類と配合を調整しました。また、排水性舗装の構造と組み合わせることで、雨天時の視認性向上と路面冷却効果の補助も図っています。
  2. 既設橋梁伸縮装置部の遮熱塗料塗布(補助対策):

    • 工法: 橋梁の鋼製伸縮装置周辺の舗装(既存アスファルト)には、高反射性の白色遮熱塗料を厚さ約1.0mmで塗布しました。これは、伸縮装置が特に熱を吸収しやすい金属製であること、および改修範囲が限定的であることから、施工性とコストを考慮した選択です。
    • 使用材料と性能:
      • 塗料:アクリルシリコン系遮熱塗料、日射反射率 60%(初期値)、熱放射率 0.90
      • 耐久性:耐摩耗性、耐候性に優れ、5年程度の性能維持が期待されます。

施工上のポイントと課題

効果と評価

コストとメンテナンスの視点

初期投資とライフサイクルコスト(LCC)

遮熱性舗装は、特殊材料の使用により通常舗装よりも初期投資コストが高くなる傾向があります。しかし、その環境改善効果は長期的に経済的なメリットをもたらします。

メンテナンス要件

遮熱性舗装の性能を長期的に維持するためには、適切なメンテナンスが不可欠です。

技術的な課題と今後の展望

遮熱性舗装技術は進化を続けていますが、大規模道路プロジェクトへの適用にはいくつかの技術的課題と、今後の展望が存在します。

既存インフラへの適用時の課題と設計・施工上の工夫

今後の展望

まとめ

大規模道路プロジェクトにおける遮熱性舗装の導入は、都市のヒートアイランド現象対策として極めて有効な手段です。計画段階でのLCC評価、施工時の厳格な品質管理、そして供用後の適切なメンテナンスを通じて、その効果を最大限に引き出すことが可能となります。

土木技術者の皆様におかれましては、本稿で述べた具体的な技術詳細や課題、そして今後の展望を参考に、大規模プロジェクトにおけるヒートアイランド対策の設計・施工にご尽力いただければ幸いです。スマートロード技術の一環として、遮熱性舗装は持続可能な都市環境構築に不可欠な要素となるでしょう。